生成AI(人工知能)によってイラストレーターなどの失業者が急増しているというニュースがあります。
本来であれば、生成AIが私達の仕事の雑務を代わりにこなし、その分、私達は楽をしたり好きなことに打ち込めるはずでした。
しかし、生成AIによって失業者が増えるという事態に。
それに加え、生成AIの創造物を巡って著作権やプライバシーの問題も各国で浮上しています。
一方、2023年5月19日〜21日のG7広島サミットでは、広島AIプロセスという生成AIの国際ルールづくりについて話し合われました。
そこで今回は、生成AIによる失業者続出の実態や広島AIプロセスによってクリエイターは救われるのか、などについてお伝えします。
生成AIによる失業者と著作権問題
中国では失業するイラストレーターが急増
ゲーム中毒者がでるほど、中国はゲーム大国で有名ですよね。
中国では十数年前から、各国から優秀なイラストレーターやITエンジニアを高額で雇い、ゲーム産業を発展させてきました。
しかし、2022年末頃から、画像生成AIの能力が大きく向上したことに伴い、イラストレーターの仕事が激減しています。
中国の多くのゲーム会社は、キャラクターや背景などの画像を、大量作成かつコストを大幅に削減できる画像生成AIを積極的に使うようになりました。
それにより、イラストレーターへの注文が減って報酬も少なくなってしまい、イラストレーターだけでは食べていけなくなった人たちが増えてきているんです。
アメリカのゲッティイメージズが訴訟
生成AIによってクリエイターの失業者問題がある一方で、著作権の問題もでてきますよね。
生成AIが絵を描いたり動画や音声を創る時、モデルとする画像や動画、音声データが基本となっています。
そのモデルが無断無許可で使用されているとして、アメリカでは訴訟問題が起きているほど。
例えば、アメリカのゲッティイメージズは、3億以上の写真などのデータを管理・提供している会社ですが、生成AIに無許可で画像を使って機械学習させたとして、画像生成AI開発会社に損害賠償を求めています。
法的なルールが追いつかないほど、生成AIが成長していっているということですよね。
ゲッティイメージズの訴訟問題は、現在裁判所の判断待ちとなっています。
日本芸能従事者協会の調査
生成AIによる著作権問題は他人事にはできず、日本でも発生しています。
日本芸能従事者協会が調査したものがあり、日本の約25,000人のクリエイターのうち約94%が、生成AIによる権利侵害などの弊害に不安があり、実際に盗作なども起きているようです。
- 生成AIが勝手にクリエイターのイラストを学習し、海外のサイトにばらまかれている
- 公開している音声を無断でAIボイスチェンジャー用モデルとして販売された
など
『ハリーポッターとバレンシアガ!生成AIコラボ動画の作り方解説』でもお伝えしたように、今は個人でも画像を生成して動きをつけたり声を入れたりと、生成AIを活用してキャラクターを創ることができるんですよね。
こうした中、日本芸能従事者協会では、生成AIが作り出した作品の、元のデータの開示の義務化や対価を還元する仕組みづくりなどを求めています。
ユニバーサルミュージックも生成AIの著作権を懸念
日本のレコード会社であり、音楽作品の企画・制作・プロモーションを行っているユニバーサルミュージックも、生成AIによる著作権を問題視しているようです。
ユニバーサルミュージックでは、Spotifyなどの音楽配信業者に対して、著作権が侵害される可能性があるので、生成AIの機械学習に楽曲が使われるのを防ぐよう要請しています。
生成AIの包括的規制案
生成AIによる著作権などの問題はEU(欧州)でも起きており、欧州議会委員会では、2023年5月11日に世界初のAI包括的規制案を承認しました。
AI包括的規制案の概要は次のとおりです。
日経新聞、共同通信など各報道機関
- AIシステムを「低リスク」、「中程度のリスク」、「高リスク」の3つのカテゴリに分類し、それぞれに異なる規制を適用する。
- 高リスクのAIシステムについては、開発者がリスクの評価を行い、適切なセキュリティ対策を講じる必要がある。
- 差別やヘイトスピーチなどの悪用から人々を保護するための措置を講じる。
- AIシステムの開発者や利用者に対して、透明性と説明責任の向上を要求する。
- 画像や文章がAIによって生成されたことを明示すること
- 機械学習させた著作物を開示すること
など
日本は生成AIの規制が緩い
AIに関する日本の著作権法
海外では裁判を行ったりAI包括的規制案を新たに作ったりしていますが、実は日本では生成AIの規制は緩いです。
これは、法整備が追いついていないというよりも、わざとそうしているみたいですね。
2018年に著作権法改正を行いましたが、AIなどの研究や活用促進を目的とするため、AIの学習においてはほとんど規制がありません。
日本の著作権法をAIの部分のみ簡単に説明すると、以下のとおりです。
- 著作権者の許諾なしに著作物をAIに読み込ませて学習させることは可能
- AIが創作した作品が創作性と独創性を備えていると認められれば、著作権法の保護対象となる
- AIが生成した画像を販売する際に、既存の著作物との類似性や依拠性が認められた場合などは、著作権法違反となる場合がある
日本は生成AIの開発を行いやすい⁉
上記のうち、海外で特に問題となっているものは①ですよね。
アメリカなどでは、勝手に人の物を使って生成AIに学習させたとして裁判を行っていますし、EUではAI包括的規制案で、AIの学習やそれによって創られた商品の販売について規制をかけつつあります。
では、なぜ日本はわざわざ著作権法を改正してまで規制を緩くしたかというと、AIビジネスを発展させるため。
生成AIの学習の部分については、著作権者の承諾を得ずにどんどんやってくださいとなっているんです。
AIを発展させるためには規制を緩くしたほうがいいのは分かるんですが、そうなってくると、著作権の他に今度はプライバシーの問題が発生しますよね。
ゆくゆくは、銀行口座や個人の行動などをAIによって監視するようなニュアンスも含んでいるので、今の日本の法体制が吉と出るか凶と出るか…神のみぞ知るといった感じでしょうか。
AI活用でGDPが7%上がる⁉
投資業務、資産運用、不動産業務などの金融業を行っているゴールドマン・サックス(本社:ニューヨーク)によると、AIを活用することにより、世界全体のGDPを7%向上させることが期待できるようです。
日本のGDPは年間約550兆円ですので、その7%だと約38兆5000億円の経済効果が見込めるということですよね。
ただ、あくまでもお金に置き換えたらの話です。
最初の方でも話したような中国のクリエイターの失業問題など、様々な問題は一旦無視して経済効果だけを考えると、日本のようにAIビジネスを発展させるために力を入れた方が良いのかもしれません。
広島AIプロセスで世界共通ルール策定なるか
閣僚宣言G7デジタル・技術大臣会合
2023年5月19日〜21日のG7広島サミットでは、AIの世界共通ルールを決めるため、「広島AIプロセス」について話し合われました。
が、その前に、G7がデジタル技術とその利活用について議論した「閣僚宣言G7デジタル・技術大臣会合」(2023年4月30日)というものがあります。
これは、デジタル技術の開発と利活用を促進し、その潜在的なリスクを管理するための施策を講じていくことの確認で、簡単に説明すると下記のとおりです。
閣僚宣言G7デジタル・技術大臣会合(2023年4月30日)
- デジタルインフラの整備と強化
- デジタル技術の開発と普及
- デジタル技術の利活用による社会課題の解決
- デジタル技術の安全性と信頼性の確保
- デジタル技術の倫理的利用の促進
デジタル技術がすべての人にとって利益があるような施策にするという確認の会合ですが、果たして、クリエイターの失業などの課題を解決できるかどうか…。
雑務は人間がこなし、創造物などの楽しい仕事はAIが行うという現状がひっくり返ることを期待したいですよね。
G7サミット(主要国首脳会議)とは、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダに加え、欧州理事会議長及び欧州委員会委員長からなる首脳会議のこと。
広島AIプロセスとは?
AIが発展することに伴い、良い点も悪い点も両方出てくるのは当然ですよね。
ただ、法整備などのルール策定がどこの国も追いついていない状況。
そこでG7広島サミットでは、「広島AIプロセス」という生成AIの利活用と潜在的なリスクの管理のための国際的な枠組みについて話し合われました。
広島AIプロセスとは、G7主導による国際ルールづくりの第一歩で、AIの開発と利活用、規制、倫理などについて議論を行い、年内にその結果を報告するというものです。
AIのメリットを最大限に活用しつつも、著作権やプライバシーの侵害などの問題をどこまで規定できるか、着目していきましょう。
まとめ
生成AIによって暮らしが豊かで楽しくなると思いきや、なんと失業者が出てしまうという問題が発生。
本来であれば、私達がやりたくない仕事はAIに任せて自動化し、私達がやりたい仕事に没頭すべきはずのものが、現状では逆になってしまっています。
生成AIの発展によって、最初にクリエイティブ業界の失業者が続出ことを、誰が想像できたでしょうか。
やりたくない仕事がいつまで経っても自動化されず、やりたい仕事ほどAIが奪っていく…。
『進化系VTuber!?スイスのAI気象予報士Jadeが人間そっくり!仕事はどうなる?』でもお話しましたが、まさに人がAIに支配されていっていますよね。
法整備が追いついていないため、失業者や著作権などを含めた様々な問題が発生している今日此頃ですが、広島AIプロセスが救いの手となるのかどうか…。
AIを上手く活用して、今まで以上に楽しく生きやすい生活になるよう期待しましょう。