現在、各地で市長選や市議選などの選挙活動が行われていますが、中には、候補者の写真にコスプレやアバター、イラストなどが使われていて、「これって大丈夫なの?」と思うような少し変わった選挙ポスターを見かけることもありますよね。
そのこともあってか、アース製薬が「商品総選挙ポスター」を本社前に掲示し、その選挙ポスターがおしゃれで面白いと話題になっています。
そこで今回は、アース製薬の商品総選挙ポスターを紹介しつつ、公職選挙法で決められている選挙ポスターの規定についてお伝えします。
前半はアース製薬の商品総選挙ポスターについて紹介しています。
前半を飛ばして、選挙ポスターの規定について手っ取り早く知りたい場合は、こちらをクリックするか、目次を選択してください。
アース製薬の商品総選挙ポスターのデザインがおしゃれで面白い
4月24日AMまで掲載中
アース製薬の商品総選挙ポスターは、アース製薬本社前(東京都千代田区神田司町二丁目12番地1)に、4月24日午前まで掲載されています。
アース製薬の商品のポスターのため、もちろん、現在行われている市長選や市議選などとは一切関係がありません。
自社商品のPR広報として掲載されているようです。
期日前投票も実施
Twitterのいいねが5.6万を超え、あまりにも反響が良かったために急遽期日前投票を実施することに。
こちらは、4月19日のみの投票となっていますが、Twitterではどの商品が良いのか「#アース製薬商品総選挙」をつけて投稿することはできます。
あなたはどの商品に一票を入れますか。
私は、小映か門田か温泡か…いや御鬼かな?まだ決めかねています。
写真加工など公職選挙法での選挙ポスターの規定
アース製薬が商品総選挙ポスターを作ったことと、各地で市長選や市議選などが行われているので、ここで少し選挙ポスターの規定について確認しておきましょう。
選挙ポスターの規定は公職選挙法で決められていますが、あまりにも規定の量が多くて難しいため、選挙ポスターの作成に限ってお話します。
必ず守らないといけない5つのこと
今からお伝えすることは、あくまでも法律上の規定です。
各都道府県や市町村などの地方自治体の選挙管理委員会によって、条例や規則、要綱が異なる場合がありますので、この限りではありません。
①大きさは420mm×300mm以内
掲示板に掲載する屋外用のポスターの場合、42cm×30cm以内と大きさが決められています。
規格サイズさえ守られていれば、選挙ポスターを縦型にするか横型にするかは自由です。
ただ、0.1mmでも大きいと掲示が認められないので注意が必要ですね。
アース製薬の選挙ポスターはどうなんでしょう?
実際に大きさは測っていませんのでなんとも言えませんが、正方形に近い形に見えますので、縦か横のどちらかが30cmを超えていなければOKですね。
アース製薬の選挙ポスターは自社商品のPRですので、もちろん公職選挙法は該当しませんが。笑
②候補者と掲示責任者、印刷者の記載
誰が立候補しているのかわかるように、選挙ポスターに候補者氏名を書くのは誰でもご存知ですが、実は、掲示責任者と印刷者の氏名及び住所を記載することも必須事項となっています。
掲示責任者と印刷者の氏名及び住所は、選挙ポスターの隅に読める字で小さく書かれていればOKです。
なお、選挙ポスターに顔写真を載せないといけないという規定はありませんので、顔写真がないポスターもありといえばありです。
ただ…どんな人なのかがわかりづらくなるので、選挙で不利になることは間違いないでしょう。
③公営掲示板以外の屋外掲示は禁止
選挙ポスターを貼るときは、選挙管理委員会が用意した公営掲示板のみにしか貼ることはできません。
例えば、町内会や自治会の掲示板に貼ったり、電柱や建物の壁に貼ったりしてはいけないということですね。
④虚偽の記載は禁止
当たり前ですが、選挙ポスターにウソのことを書いてしまったら違反になります。
例えば、人物写真を掲載せる時、候補者以外の人のみ載せるというのはNG。
(ただし、候補者が誰かわかれば、他人が写っていてもOK)
キャッチコピーなどを考える際にも、十分に注意しないといけませんよね。
⑤利益誘導は禁止
選挙ポスターに自分の事業や商品を売るための宣伝文句を入れたりなど、何かしら利益に繋がるように誘導したらアウトです。
つまり、選挙ポスターをマーケティングのために使ってはいけないということですね。
室内に貼る場合に気をつけるべきこと
大きさなどの規定は、公営掲示板に貼る屋外用の選挙ポスターにのみ当てはまります。
そのため、例えば後援会事務所の中にポスターを貼るなどの場合、特に大きさや掲示責任者と印刷者の記載などは特に決められていません。
屋外用の選挙ポスターを室内に貼っても良いですし、室内用のどデカイポスターを作ってもOKなんです。
(室内用のポスターは、「室内用」というフレーズを入れないといけないことになっている。)
ただ、少し注意しないといけないのが、選挙ポスターを室内から外へ向けて貼ると公職選挙法違反になるという点。
窓に選挙ポスターを貼るときなどは、特に注意が必要ですよね。
選挙ポスターで意外と許される行為!写真加工も
選挙ポスターを作る際、今お伝えした3つのことは必ず守らなければなりませんが、ここまでであればやってもOKというものもあります。
SNS情報やQRコードの記載
例えば、候補者がTwitterやInstagram、YouTubeなどのSNSをやっていたり、ホームページやブログなどを持っている場合、選挙ポスターにそれらの情報やQRコードを記載しても問題ありません。
SNS情報やQRコードは、虚偽でなければ記載してOKなんです。
アース製薬のポスターを見てみると、流石ですね。しっかりとQRコードが記載されている商品があります。
選挙ポスターの上からシールを貼る
選挙ポスターに落書きしたり破ったりすると違反で捕まることはご存知かと思いますが、実は、誤字脱字などを修正する場合に上からシールを貼るのは容認されています。
むしろ、虚偽の記載がされていたら違反となってしまうので、選挙ポスターの上からシールを貼るなどして修正しても大丈夫なんです。
わざわざシールを貼るのが面倒な場合は、一度貼った選挙ポスターを剥がして新しいポスターに貼り替えるのも、もちろんOKです。
写真の加工
選挙ポスターの写真と、候補者ご本人の顔が違うことってありませんか。
例えば、選挙ポスターに若い頃の写真が使われていたり、一部のシワなどが消されて若く見えたりする写真がありますよね。
実はこれ、公職選挙法では違反ではないようです。
「虚偽の記載はしてはいけない」となっているので、候補者ではない別の人の顔だけを載せてはいけませんが、若い頃の写真や加工した写真が候補者自身であれば、違反ではないみたいですね。
大阪弁護士会が調査したものがあります。
大阪弁護士会(https://www.osakaben.or.jp/matter/view.php?id=155)
- 先週、住んでいる市で市議選があったのですが、高齢の候補者の一人が選挙ポスターに載せた自身の上半身の写真が、実際の候補者とずいぶん違っていました。
情報通の知人が言うには30年前の写真だそうです。そんなことをしても違法ではないのですか。規定「虚偽」に当たらず 本人なら画像修正等も可能
公職選挙法235条1項は、当選する目的で候補者などが身分や職業、経歴、所属する政党や団体について虚偽の事項を公にすると、2年以下の禁固刑または30万円以下の罰金刑を科されると定めています。
選挙ポスターの候補者の写真が、この規定の対象になるのかという議論もありますが、仮になるにしても、30年前の写真とはいえ候補者本人の写真であることに偽りがなければ、規定の中の「虚偽」には当たらないと言うべきでしょう。
候補者本人と称して別人の写真を掲載することは「虚偽」に当たるといえますが、撮影で特別な化粧をすることや、肌の色の補正やシミ消しなどの画像修正は「虚偽」には当たりません。
選挙ポスターは大きさや掲示場所、期間などについての規制はありますが、ポスターの内容は候補者の表現の自由に広く委ねられています。
そのため、候補者によってはポスターの構図やイラスト、写真のポーズや服装についてさまざまに演出する場合もあるようです。
2015年の統一地方選では、自身の全裸の写真をボスターに使った候補者がインターネットで話題になりました。
一方で、各戸に配布される選挙公報については自治体の選挙管理委員会による規制が設けられていることもあります。
例えば「おおむね6カ月以内に撮影し、脱帽の上で正面を向いていること」を、使用する写真の要件と定めている自治体もあります。
候補者にとって選挙活動は憲法21条1項で「表現の自由」として保障されます。
私たち有権者は、民主主義の当事者として候補者が次々と発信する情報をしっかりと吟味し、分析する力量が問われています。
〈回答・南和行弁護士(大阪弁護士会所属)〉
※記事内容は掲載当時のものであり、現在の制度や法律と異なる場合もございます。
こちらに記載されているとおり、基本的に法律には違反しませんが、自治体の選挙管理員が「おおむね6か月以内に撮影し…」などと決めている場合は、注意しないといけません。
アース製薬の商品総選挙ポスターの写真の加工は?
アース製薬の商品総選挙ポスターは、あくまで商品PRのためですので、何度もお伝えしているように公職選挙法は全く関係ありません。
が、ここでちょっと、各ポスターの写真に注目してみましょう。
どれもなかなかいい感じに写真が使われていますが、私が好感持てるのは、「更良てくと」ですかね。
写真の加工がほとんどされていないように見えて、なんか良いなぁと思います。
逆に、「透霧きり」の写真は盛り過ぎな気がしますね。笑
あなたは、どう思いましたか?
選挙ポスターのアバターやコスプレ、イラストは公職選挙法違反か?
白寄りのグレーゾーンだが虚偽はアウト
アバターやコスプレ、イラストは、正直グレーゾーンです。
公職選挙法が制定されたのは1950年ですが、その当時は、写真の加工はもちろん、アバターやコスプレなどは想定されていませんでした。
特にアバターなんて、ほんの数年前からの話ですよね。
先程の、若い頃の写真を使っていたり写真を加工しても問題ないという点から、おそらくイラスト(似顔絵)は違反にはならないでしょう。
問題は、アバターとコスプレです。
アバターに関しては、AIが書いたものであっても候補者に似ている似顔絵であれば問題なさそうですが、あまりにもかけ離れているものは「虚偽」になる可能性があります。
2023年4月の武蔵野市議会選挙で、コスプレの選挙ポスターとアバターの選挙ポスターが、悪い意味で話題となりましたが、コスプレについては、実は過去に問題になったことがあります。
2020年の東京都知事選で物議を醸した「コードギアス」のコスプレ選挙ポスター
2020年にも、東京都知事選で物議を醸したコスプレの選挙ポスターがあったんです。
その時の選挙管理委員会と弁護士の見解がこちらです。
●東京都選挙管理委員会の見解は?
東京都選挙管理委員会に取材したところ、「利益誘導や選挙妨害などの問題がなければ、公選法上、ポスターの内容、デザインは自由です。
万が一、著作権法の問題があるとすれば、それは候補者と著作権者の間で解決すべきことであり、選管としては立ち入りません」との見解を示した。
●福井健策弁護士「著作権侵害にはギリギリあたらないのでは」
では、後藤氏のコスプレ選挙ポスターは著作権侵害にあたらないのだろうか。
「著作権侵害かと言えば微妙で、おそらくギリギリであたらないのではないでしょうか。」こう話すのは、著作権の問題にくわしい福井健策弁護士だ。
「著作権侵害とは、ある表現が違法であり、権利者がその気になれば強制的に表現を禁止できる状態をいいます。いわば表現の世界での”ギアス”ですね。よって、著作権侵害が成立する基準は一般の方が考えているより高いです」
その判断は難しいのだろうか。
「たとえば、比較的シンプルなフレーズや着ている衣装が似ていても、それだけで常に侵害にあたるわけではありません。また、今回で言えば、あくまでポスターに写っている部分だけで判断します。
著作権というのは、とても保護期間が長い権利で、著作者の死後70年などのあいだ守られます。
ですから、そのくらい長きにわたってこの表現が禁止されてもしかたがないなというほど、他人の独創的な表現との類似度が高いと、侵害になるのですね。
『あ、これはルルーシュだな』と人々がすぐに連想するとしても、連想させるだけで常に違法表現になるわけではないのです」
では、問題はまったくないのだろうか。
「今回は、むしろ選挙ポスターとしてこうしたコスプレがふさわしかったのか。通常のファン活動と選挙活動でコスプレの考え方は異なるべきか、というような『論評』に委ねられるべき問題であるように思います。
その意味で、サンライズが冷静な発表をおこない、後藤さんがそれに対して真意を説明した、という流れを受けて、人々がどう評価するかが本質に思えますね」
弁護士ドットコムニュース(https://news.line.me/detail/oa-bengo4com/u0kpyq8oejty)
選挙ポスターは誰が貼りに行く?
公営掲示板って、街の至るところにあるじゃないですか。市長選や市議選などでは、100〜200箇所あります。
これは誰が貼りに行くんでしょうか。選挙管理委員会がやってくれるのか…?
いいえ、候補者が人を集めて、自分たちで貼らないといけないんですよ。
公営掲示板は、大通りよりも狭い生活道路に設置されていることの方が多いみたいで、探すのだけでも大変だと言う話を、市議会議員に立候補した知人から聞いたことがあります。
まとめ
率直に、商品総選挙ポスターに予算を避けるアース製薬ってとっても良い会社なんだなぁって思いました。
こういう冗談ができるくらい余裕を持つことって大切ですよね。
ちなみに、この記事を書き終わったときには、アース製薬のTwitterは8万いいねを超えていました。
皆もこういう冗談が好きってことではないでしょうか。
実際の選挙ポスターは、公職選挙法でしっかりと定められていますが、写真の加工については白寄りのグレーゾーンです。
「虚偽」の場合は違反となってしまいますので、候補者ではない人物だけの画像を使っていたらアウト。
つい最近では、武蔵野市の市議会選挙が話題に上がっていましたが、あれはどうなったんでしょうか。
たとえ公職選挙法違反ではなくても、議員の質が疑われる選挙ポスターを作ること自体、よろしくないことですよね。