2月24日にスイスのジュネーブで行われた国連の会合で、一般討議が始まると、突然、カイラサ合衆国のヴィジャヤプリヤ・ニティヤナンダ終身国連大使を名乗る女性が、「先住民の権利と持続的発展」と題して演説を行いました。
この女性は、インドの民族衣装のような服に身を包み、流暢な英語で演説するため、各国を代表する者たちもほとんど疑うことなく真剣に耳を傾けていました。
他にも、カイラサ合衆国は、アメリカ合衆国のニューアーク市と姉妹都市提携をしたり、他の都市との外交を色々と行っているようです。
でもこのカイラサ合衆国、実は国家として怪しいところが満載。
そこで今回は、このカイラサ合衆国とはどういう国なのか、その正体に迫ります。
カイラサ合衆国とは?
建国や場所について
カイラサ合衆国とは、世界中から追放されたヒンズー教徒によって復活させられたヒンドゥー教の宗教国家のようで、2019年に建国と発表されています。
ただしこれは、カイラサ合衆国が発表しているに過ぎず、実際のところカイラサ合衆国とはミクロネーション(自称国家)なのです。
なぜカイラサ合衆国という名前なのか…、それは、ヒンドゥー教のシヴァ神が住むとされる聖地カイラス山にちなんでつけられました。
さらに、独自政府や省庁の発足、金色のパスポート発給、首都機能を南米エクアドル沖合の島に置いています。
(ただし、エクアドル側はこれを事実無根と否定している。)
カイラサ合衆国の使命
カイラサ合衆国の使命は、ヒンドゥー教のサナタナダルマを尊重し、本物のヒンドゥー教に基づき、啓蒙(けいもう。無知の人を啓発して正しい知識に導くこと。)をしながら文化と文明の保存、復元、復活に専念することのようです。
ちなみに、サナタナダルマとは、永遠で絶対的なものであり、寛大さ、純粋さ、善意、慈悲、忍耐、寛容、自制、禁欲など、多くの美徳を語っています。
カイラサ合衆国のビジョン
カイラサ合衆国のビジョンを調べてみましたが、正直宗教的というか哲学的というか…ちょっと用語が難しいですね。
一応、調べたことを私なりに解釈してお伝えします。
アドヴァイタ(不二一元論)を思い起こさせ、本当の自分である「ワンネス」に至ることを基本原則としたすべての人類のために生きること。
これを崩して解釈すると、すべての人達は平和と調和の中で生きることができ、肌の色、国籍、宗教、性別、カースト、信条、人種に関係なく平等であるべきということです。
ものすごくキレイなことを言っていますね。しかし、建国者本人は、このビジョンに反するようなことを色々とやっているようです。
カイラサ合衆国の建国者の正体
SPHを名乗るヒンドゥー教の宗教指導者
カイラサ合衆国の建国者かつ国家元首とされるのは、自らSPH(Supreme Pontiff of Hinduismの略。「ヒンドゥー教の最高教皇」という意味。)を名乗る宗教指導者バガヴァン・スリ・ニティヤナンダ・パラマシヴァム氏です。
出身はインドのティルヴァンナーマライ。
24歳からヒンドゥー教の導師として本格的な布教活動を開始し、その翌年にはアシュラム(修道院)まで建設するほどの凄腕です。
性暴力の罪でインドから追放される
ニティヤナンダ・パラマシヴァムは、2010年に女性信者への性暴力で逮捕された経歴があり、更にその後、子どもを誘拐してアシュラムに監禁した容疑で告発されています。
裁判の直前でインドから逃亡し、南米エクアドル沖合の島を購入してカイラサ合衆国の建国に至ったのです。
詐欺師と言われるほどの凄腕宗教指導者でしたので、お金だけはたんまり持っていたのでしょう。
カイラサ合衆国の国旗や国章、言語など
国旗に描かれている人物像(国章)について
カイラサ合衆国の国旗には、人の顔が描かれている国章と牛が描かれています。
国章は「パラメシュヴァラ」(パラマシバ)と呼ばれ、シヴァ神(ヒンドゥー教3柱の主神の1人)や最高の指導者を意味します。
国章をよく見てみると、上の方に顔が25個、手が50本あり、その下にさらに人が一人座っているのがわかりますよね。
上の25人は建国者であるニティヤナンダ・パラマシヴァムの配偶者のようで、それら全てで一柱のシヴァ神であり、宇宙で最も強力で究極な形と謳っています。
えっ、てことは、25人も妻がいるってこと?使命として掲げているサナタナダルマとはえらいかけ離れている気がしますが。
なお、一人だけ膝の上に座っている女性らしき者がいますが、これはシャクティ(愛情豊かなシヴァ神の妻の化身)のようです。
(頭にいくつも「?」がつきそうですが、宗教指導者が考えたものですので、そういうものなんだと受け流してください。)
下のど真ん中に座っているのが、自らSPHと名乗っているニティヤナンダ・パラマシヴァムです。
国の動物と国鳥、国樹
国旗の右側に描かれているのは、「ナンディ」と呼ばれる雄牛です。
ナンディを神聖な雄牛として国の動物に指定しています。
国鳥:シャラバム
また、国鳥も指定しており、「シャラバム」といいます。
黄金色で2つの翼、2つの赤い目、地面に触れるライオンの形をした4本の足、爪が上向きの4本の足、動物の尾を持つ鳥です。
いや、もはや鳥なのかどうかすら怪しい。現実には存在しない怪鳥を国鳥に指定しています。
ちなみに、日本の国鳥はキジです。あの桃太郎にも出てくるキジ。ちゃんと実在する鳥です。
国樹:ガジュマル
国樹は、観葉植物でも馴染み深い「ガジュマル」の木。おぉ、なんか一気に普通になりましたね。
ガジュマルは、天空の城ラピュタにも出てくる木です。
一般的に幸せを呼ぶ木といわれ、育てやすいことからインテリアや風水などに使われていたりします。
一方で、絞め殺しの木という別名を持っていることもまた事実。
これは、ガジュマルが他の植物や岩などに巻きつきながら生長し、巻き付かれた植物がやがて枯れ果てるからです。
コンクリートやアスファルトを突き破ったり、寺院などの遺跡を浸食したりするくらい強い力を持っています。
さて、これを聞くと、カイラサ合衆国は、もしかすると幸せを願うよりも自分たち以外の人達からあらゆるものを奪い尽くし枯らし浸食するという意味でガジュマルを国樹にしたのかも…。
信じるか信じないかはあなた次第です。
カイラサ合衆国の言語と市民権
カイラサ合衆国の言語は、第一言語〜第三言語まであります。
第一言語:英語
第二言語:サンスクリット語
第三言語:タミル語
なお、ヒンドゥー教徒であれば、カイラサ合衆国の市民権を得られる模様。
カイラサ合衆国の様々な外交
2月24日の国連の会合にて
カイラサ合衆国が大々的に騒がれるきっかけとなったのは、2023年2月24日にスイスのジュネーブで行われた国連の会合での発言です。
この会合に、インドの伝統衣装のような服を着たカイラサ合衆国大使を名乗る女性が、
「“カイラサ合衆国”を代表して発言します。カイラサでは食料や教育、医療などをすべて無料で提供しています。」
という発言が報道され、話題となりました。
なぜ国連の会合に出席できたのか?
国連(国際連合)の加盟対象は国際連合憲章第2章第3条により、独立国家(主権国家体制)のみ加盟できるとされています。
つまり、主権・領土・国民の三要素を持った国家は加盟できるということ。
カイラサ合衆国が国連の会合に出席できた経緯は明らかにされていませんが、カイラサ合衆国の外交担当あるいは広報担当がある意味優秀だったのでしょう。
宗教国家(国家というべきかわかりませんが…)のため、国連の会合へ出席できる条件をあれやこれやと提示し、マインドコントロールを駆使して言葉巧みに欺いたと予想することもできます。
あと、意外とカイラサ合衆国のホームーページがしっかりしているので、そこも国連の評価のポイントになったのかもしれません。
ニューアーク市と姉妹都市提携
2023年1月にカイラサ合衆国は、「アメリカも我々のことを国家として承認した」と発表しています。
その背景には、アメリカ合衆国のニュージャージー州の最大都市であるニューアーク市との間で姉妹都市提携が結ばれたからです。
大々的に署名式まで行われています。
しかしこれは、ニューアーク市側が騙されていたようで、この合意は後に破棄されています。
なぜニューアーク市はカイラサ合衆国を事前に調べなかったのか、なぜそんなに軽々しく提携したのか、もうギャグでしかありません。
これには、ニューアーク市に呆れた声や逆にカイラサ合衆国の外交(広報)が優秀という声がたくさん寄せられています。
- アメリカは義務教育で地理を必修科目にした方が良い
- カイラサ合衆国の大使が一番ビックリしてそう
- Google検索する人はいなかったのか。実際に調べもしないでホイホイ署名しちゃうのが一番どうかしてるね
- 調印式まで持ち込んだり会合に潜入出来たりとか外交担当優秀過ぎじゃね?
- こんなんが国連の会合に紛れ込んでるとか面白すぎやろ。正直もっとやってほしい
- 国連の本部にこんな不審者侵入できちゃってるのが一番ヤバいな
- どこのどんな国かも知らずに姉妹都市契約しちゃうの凄すぎる。私でもできるかな
他にも宣言や声明を受けている
アメリカ合衆国やインドなど、諸外国の都市から宣言や声明を受けているようです。
2021年〜2022年にかけて積極的に宣言や声明を受けており、もしかするとこれらがきっかけで、姉妹都市提携にこぎつけたり、国会の会合に出席できたりしたのかもしれませんね。
実はカイラサ合衆国の大使館が存在する?!
カイラサ合衆国を色々と調べていくうちに、カイラサ合衆国のスピリチュアル大使館というものが世界の至るところに存在していることがわかりました。
スピリチュアル大使館とはなんぞや?ということですが、ヒンドゥー教の大学、寺院、僧院などを指すようです。
場所は、アルゼンチンやブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギー、オーストリア、インドなど、世界各国にスピリチュアル大使館なるものがあります。
なお、あくまでもカイラサ合衆国が公表しているもので、互いに支持されているかどうかはわかりません。
ちなみに、日本にはまだありません。ちょっとホッとしましたね。
アジアやアフリカへの進出はまだそれほどされていないようです。
ミクロネーション(自称国家)はカイラサ合衆国だけではない
カイラサ合衆国は、ミクロネーションですが、実はミクロネーションはカイラサ合衆国だけではないんです。
その数なんと200カ国以上!
ちなみに、かつて日本が中国の一部を占領して創った満州国もミクロネーションです。
なお、世界最小の自称国家はシーランド公国です。
シーランド公国は、第二次大戦中に建造されたイギリス軍の海上要塞を元軍人らが占拠し、1967年に建国されました。
その面積は、なんと9×23メートルというテニスコートほどの大きさしかありません。
2022年に建国55周年を迎えています。これほど小さな自称国家がまだ存続しているのは驚きですよね。
まとめ
- 2019年に建国
- 南米エクアドル沖合の島を首都とするがエクアドルは否定
- ヒンドゥー教のサナタナダルマを尊重
- すべての人達は平和と調和の中で生きることがビジョン
- SPHを名乗るヒンドゥー教の宗教指導者
- 出身はインドのティルヴァンナーマライ
- 性暴力の罪でインドから追放される
- 国旗の左に国章、右に国の動物
- 国章はシヴァ神と建国者本人
- 国の動物はナンディという雄牛
- 国鳥はシャラバムという怪鳥
- 国樹はガジュマル
- 言語は英語、サンスクリット語、タミル語
- 2月24日の国連の会合での発言
- ニューアーク市と姉妹都市提携する
- 諸外国の都市から宣言や声明を受けている
- 実はカイラサ合衆国の大使館が存在する?!
- 世界各国のヒンドゥー教の大学、寺院、僧院をスピリチュアル大使館としている
- 日本にはまだないのでちょっと安心
- 200各国以上ある
- 満州国もその1つ
- 世界最小の自称国はシーランド公国