大阪・関西万博(正式名称:2025年日本国際博覧会。以下「大阪万博」という。)の工事が進んでおらず、このままだと失敗するから中止にしたほうが良いのではないかという声が多数ありますよね。
そんな国民の声に聞く耳を持たず、大阪万博を強行しようとするのはなぜなのでしょうか。
その理由は、政治家たちの動きを観察するとよくわかります。
大阪万博のテーマは、表向きには良いことを言っているように見えますが、実は日本維新の会vs自民党という政治家たちのプライドをかけたバチバチの戦い。
それに私たちは巻き込まれ、あまつさえ国益をも失おうとしているんです。
そこで今回は、政治家たちのプライドを視点に大阪万博を中止しない理由について解説してきます。
なぜ大阪万博を開催することになったのか
日本維新の会の構想の一つ
大阪万博は国家事業の一つであるため、自民党を中心に決めたのかと思いきや、そうではありません。
日本維新の会の母体である大阪維新の会の構想の一つに、大阪万博とカジノIR(IR=リゾート施設)が掲げられているんですよね。
大阪万博の前は、2020年ドバイ国際博覧会。
ドバイの次の開催地を決めるとなった時、当時大阪府知事だった松井一郎氏と大阪市長の吉村洋文氏(現:大阪府知事)が、日本維新の会の構想を実現させるため、大阪で行いたいと手を挙げたんです。
ドバイ国際博覧会は2020年に行われる予定でしたが、コロナの影響もあり約1年後に延期されました。
ドバイ国際博覧会の開催時期は、2021年10月1日から2022年3月31日までの182日間。
ドバイも延期したという実例があるので、大阪万博も間に合いそうになければ延期すれば良いのにと思いますが…。
維新の会について(クリックして開く)
日本維新の会は政党名で、その母体となる団体は大阪維新の会です。
松井一郎氏も吉村洋文氏も、公認政党は大阪維新の会となっていますが、この記事では、日本維新の会も大阪維新の会も「維新の会」と表記することにします。
ちなみに、大阪維新の会は2010年4月19日に当時大阪府知事だった橋下徹氏が結成した地域政党ですが、政党が結成される前は別の団体が「維新の会」という名前を使っていたことをご存知でしょうか。
この名前は実は、参政党の神谷宗幣氏が考えたもの。
当時、拠点を淡路島にしていた神谷氏は、大阪から日本の教育を変えたいと「大阪教育維新の会」という団体を立ち上げました。
この事は橋下氏も知っていましたが、橋下氏が政党を立ち上げる時に神谷氏の団体名から無許可で日本維新の会と名付けたんです。
神谷氏は、維新の会を政党名に使わないよう橋下氏に伝えたそうですが、橋下氏はそれを聞き入れずに日本維新の会を立ち上げたという歴史があります。
なお、神谷氏はその後、大阪教育維新の会をあきらめ、「龍馬プロジェクト」という団体を立ち上げています。
2018年の総会で大阪万博の開催決定
ドバイの次の開催地を決めるため、2018年11月24日に博覧会国際事務局(BIE)の総会がパリで行われました。
そこに出席したのが、当時の経団連会長兼誘致委員会会長の榊原定征氏を始めとした委員の方々、竹本直一IT担当大臣、そして松井知事と吉村市長です。
大阪万博の経費が、国、大阪府・大阪市、経済界がそれぞれ3分の1ずつ負担することになっているのは、維新の会である大阪府知事と大阪市長が誘致に関わっていて、大阪で開催されるからなんですね。
つまり、大阪万博の経費について、大阪府民は3分の2を、それ以外の国民は3分の1を税金で負担することになります。
そもそも大阪万博は何が目的?
橋下徹知事の頃から構想に挙がっていた
維新の会は、なぜ大阪府民を犠せ…負担してまで大阪で万博をやることを構想に掲げていたのでしょうか。
それは、橋下徹氏が大阪府知事になった時からほぼ決められていたこと。
橋下徹氏が維新の会として出馬した時、大阪都構想と夢洲(ゆめしま)での大阪リゾート構想を掲げていました。
橋下氏を始めとした日本維新の会は、負の遺産と言われている夢洲に外資を入れてリゾート開発したいと考えたんです。
そして、松井一郎氏が大阪府知事だった2014年の時に、DREAM ISLANDつまり夢洲で大阪万博とカジノIRを行う構想が立ち上がりました。
今の若い人たちは夢洲が負の遺産だと思っている人は少ないでしょうし、関西以外に住んでいる人なら「そもそも夢洲って何?」という認知度ではないでしょうか。
大阪万博は、夢洲を造った経緯を知っている人たちの変なプライドによって出来た構想なんです。
大阪万博の真の目的とは?
ここまで話すとお分かりかと思いますが、維新の会が自分たちの構想を実現させたくて大阪万博を誘致しました。
大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、目的は「一人一人がつながり、コミュニティを形成する、社会を豊かにすることに焦点を当てる」という、抽象的すぎて何のことだかわからない事を謳っていますよね。
でも、これはあくまでも表向きに発信している言葉であって、政治家にとっては特にどうでも良いこと。
大阪万博の真(裏)の目的は、維新の会が野党第一党に躍り出ることなんです。
現在の野党第一党は、立憲民主党ですよね。
維新の会は、大阪万博を利用して立憲民主党を抜き、自民党に幅を利かせるくらいの力を得たいと考えました。
その証拠に、2023年4月の統一地方選挙でも吉村洋文知事は大阪万博を公約に掲げています。
大阪万博を中止にしない理由
吉村知事としては公約に掲げた以上、なんとしてでも大阪万博を実行させなければなりません。
大阪万博を延期どころか中止にしてしまったら、公約達成できずで支持率が下がり、維新の会の勢力が弱まってしまいます。
もしかすると、次期選挙にも負けて吉村氏自身の生活さえ危ぶまれることになる可能性も。
国益よりも国民よりも、まずは自分と自分たちの利益を確保。
維新の会の勢力を拡大するため、大阪万博を中止にするわけにはいかないんです。
しかしそうは言うものの、『大阪万博失敗7つの理由!参加国申請遅延の本当の原因は夢洲』で話したとおり開催地である夢洲が超危険地帯であるため、工事遅延などでことが上手く運んでくれません。
そこで泣く泣く、吉村知事は岸田総理へ助けを求めに行くことにしました。
維新の会が自民党へ助けを求めた
大阪万博が間に合わないことに気づく吉村知事
2023年4月の統一地方選挙で見事勝利を勝ち取った吉村知事は、これみよがしに「誘致に成功したのは維新の功績だ」と維新の会の大阪万博であることを主張しました。
しかし、事態は一変。大阪万博の計画が上手く進んでいないことが吉村知事の耳に入ります。
不安になった吉村知事は、建設関係に詳しい田中清剛副知事を5月に万博協会へ送り込んだんですが、想像以上にヤバいことが判明してしまったんです。
どれくらいヤバいのかは、『大阪万博失敗7つの理由!参加国申請遅延の本当の原因は夢洲』でお話したので割愛しますが、とにかく建設事業者がほとんど手を挙げてくれない状況。
これは大阪府だけでは解決できないと判断した吉村知事は、岸田総理に大阪万博の現状を伝えることにしました。
5月29日首相表敬訪問で説明
大阪府知事の仕事の一つとして、元々5月29日に岸田総理へ表敬訪問するスケジュールになっていた吉村知事は、ここしかチャンスがないと思ったのでしょう。
岸田総理への挨拶と共に、「大阪万博の工期がタイトなのは間違いない」と伝えました。
そして岸田総理からは、「素晴らしい万博にするために協力してやっていきましょう。」と、前向きなコメントをもらうことが出来たんです。
これで少しホッとした吉村知事。
もし大阪万博が失敗に終わったとしても自民党と痛み分けできますし、成功したら維新の会の功績になるわけです。
しかし、これは少々吉村知事の読みが甘かったですね。
岸田総理が一枚上手であることを認めざるを得ないパフォーマンスを見せつけられる出来事が起こりました。
8月31日岸田総理がカメラの前で宣言
とにかく時間が足りない状況の中、6〜8月の2ヶ月間で色々と手を回した自民党や各省庁の官僚たち。
なんとか体制が整い、岸田総理は8月31日に吉村知事とマスコミを呼んで大阪・関西万博に関する関係者会合を開きます。
これは、あまり前例のない珍しいこと。
そしてそこで、岸田総理はカメラの前でこうはっきりと言い放ちました。
(前略)
万博の準備は、まさに胸突き八丁の状況にあります。
極めて厳しい状況に置かれていることを改めて直視し、正面から全力で取り組んでいかなければなりません。
(中略)
万博の成否には、国際社会からの日本への信頼がかかっています。私は内閣総理大臣として万博成功に向けて、政府の先頭に立って取り組む決意であります。
(以下省略)
首相官邸(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202308/31banpaku.html)
これはどういうことかと言うと、大阪府(維新の会)が上手くやれていないので、その尻拭いを自民党がし、そして岸田総理が維新の会に取って代わって先頭に立つと言っているんです。
しかも、カメラの前でですよ。
吉村知事としては、岸田総理に完全に手柄を取られてしまった状態。
岸田総理のパフォーマンスに撃沈しましたね。この時はすごく居心地が悪かったことでしょう。
維新の会はこの瞬間に敗北が決定し、自民党は維新の会に貸しが作れてラッキーという形勢になりました。
岸田総理の大阪万博対策
万博協会へNo.3の官僚を派遣
大阪万博の手柄を引き受けることにした自民党ですが、開催が危ぶまれている状況は変わらないため、早急に手を打たなければなりません。
そこでまず、組織改革に目を向けます。
大阪万博の工事遅延は大阪府の責任でもありますが、万博協会の見通しや把握が甘かったことも原因であることは間違いありませんよね。
そこで、経済産業省や財務省の元事務次官や局長など、No.3クラスの官僚を万博協会へ送り込みます。
今までは大阪府に任せていた大阪万博ですが、これからは国家プロジェクトとしてお金を出す代わりに口も出すよということ。
9月からは、国が完全にコントロールしていく形となりました。
万博貿易保険でバラマキ政策
万博貿易保険とは、万博で予期せぬトラブルがあった時のための保険で、政府が100%出資している日本貿易保険会社の商品。
例えば、参加国から代金が支払われないということが起きたら、その保険から全額又は大部分を補償されます。
万博に携わる建設事業者などの企業はこの保険への加入が必須となっているんですが、なんとその保険料を国が3分の2ほど肩代わりすることにしたんです。
これで、建設事業者としては金銭面で少し楽になりましたよね。
ただ、国のお金ってどんなお金なんでしょうか。
そう、私たちの税金です。
いくら岸田総理が先頭に立って自民党が指揮を執ることになったとしても、できることは限られています。
さすが増税メガネの異名を持つ岸田総理。バラマキ政策でなんとか事態を解決しようと考えたようですね。
根本的な問題が解決されていない
しかし、いくらお金をバラ撒こうが、根本的な問題は解決できていません。
大阪万博が失敗に終わると言われている一番の原因は、夢洲そのものにあります。
詳しくは『大阪万博失敗7つの理由!参加国申請遅延の本当の原因は夢洲』で解説していますのでそちらをご覧いただきたいんですが、開催地を移転しない限り、苦しい状況が変わることはないでしょう。
このままでは、維新の会も自民党も共倒れということもあり得るかもしれませんね。
万博に使ったお金は国民に還元されるのか?
大阪万博を中止せずに強行するのは百歩譲ったとして、問題はしっかりと利益が出るかどうかです。
特に、大阪府民の人たちは3分の2を負担しているので、万博のお陰で大阪の景気が良くならなければ大阪で開催した意味がないですし、国益に繋がりませんよね。
そこで、最近の国家事業がどうだったのか、少し見てみましょう。
最近の大きな国家事業といえば、2020年東京オリンピック。(コロナの影響で開催は2021年)
東京オリンピックが終わった後、私たちの暮らしは少しは豊かになったでしょうか。
給料は上がり、円高で日本の価値も上がり、精神的にも満足してとても住みやすい国に…
全くの真逆になっていませんか?
それどころか、ステルス増税でさらに私たちの生活は圧迫され続けていますよね。
しかも、東京オリンピックでは癒着や汚職があり、逮捕者まで出ています。
つまり、私たちの税金が不正に使われていたということ。
大阪万博は今のところ中止も延期もしないということですので、東京オリンピックの二の舞いにならないよう、大阪万博を誘致した維新の会、先頭に立つと宣言した自民党、そして経済産業省を始めとした各省庁など、政府にはしっかりと責任を持って取り組んでほしいものです。
東京オリンピック・パラリンピックの賄賂の受け渡し等で逮捕された人たちは、以下のとおりです。
- 高橋元理事(受託収賄の疑い)
- 青木拡憲前会長らAOKIホールディングス幹部3人(贈賄の疑い)
- 角川歴彦元会長ら出版大手「KADOKAWA」の3人(贈賄の疑い)
- 大会組織委員会大会運営局の元次長
- 大手広告会社「電通」の元幹部ら3人
なお、万博協会の役員はこちらから確認できます。
東京五輪と同じことが起きないよう、誰がいるのか把握しておきましょう。
番外編:危機管理能力が低い維新の会
東日本大震災で咲州庁舎が倒壊しそうになった
大阪万博の開催地を超危険な夢洲でやることを決定した維新の会ですが、維新の会の危機管理能力の低さは今に始まったことではありません。
実は、橋下徹氏が大阪府知事だった頃、大阪府庁の本庁を咲州庁舎(さきしまコスモタワー)に移転することを公約に掲げ、準備を進めていました。
咲州とは夢洲の隣りにある人工島で、夢洲と同じく危険地帯。
その咲州への移転計画が本格化してきた頃、ある一つの大規模災害が発生します。
それが、2011年3月11日の東日本大震災です。
なんと、約1,000km離れている東北沖で地震が起きたにも関わらず、咲州庁舎は数十分もの間、最大1.4m幅も揺れたんです。
かなり遠いのに咲州庁舎がユッサユッサ揺れたのは共振したからなんですが、これはビルがポキっと折れてもおかしくない状況。
スポンジケーキのように柔らかい土地の上に重くて細長いビルを建てるのでこうなります。
これがもし、南海トラフ地震だったらどうなっていたことでしょうか。
橋下徹氏は本庁移転を断念し府庁の座を降りた
それでも、自身で掲げた公約のためだけに本庁の咲州への移転を強行しようとしていた橋下徹氏。
そこへ、当時防災の第一人者だった関西大学社会安全研究センター長兼人と防災未来センター長の河田惠昭氏と名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫氏が待ったをかけます。
そのお二人が、咲州庁舎がいかに危険な建物なのか説明して橋下徹氏を説得し、本庁の移転を取りやめさせました。
河田氏と福和氏が、多くの大阪府民の命を救ったんです。
公約を果たせなかった橋下徹氏はこの後、当時副知事だった小河保之へ代理府知事を任せ、府知事の座を降りたのでした。
教訓を学ばない維新の会
過去にそのような経緯があったにも関わらず、危険地帯で大阪万博を強行しようとしている維新の会。
『大阪万博失敗7つの理由!参加国申請遅延の本当の原因は夢洲』でもお伝えしたとおり、夢洲での工事は難航していますし、ひとたび地震などの災害が起これば、そこにいた多くの人たちは犠牲になることでしょう。
なんといっても、夢洲は孤立していますし、陸へ戻ろうにも同じく人工島で危険な舞洲(まいしま)を通らないといけませんので。
夢洲での大阪万博の後はカジノIRを計画しているようですが、万が一犠牲者が出てしまったら、きっと計画した側は知らんぷりして建設事業者へ責任を押し付けるのではないでしょうか。
そんな事にならないよう、防災の観点からも、大阪万博を含めた維新の会の夢洲リゾート構想は今すぐ中止したほうが良いのです。
まとめ
大阪万博を中止も延期もせずに強行する理由について、政治家たちの動きを中心にお伝えしました。
こうやって振り返ってみると、私たちはかなり政治家に振り回されているなぁと感じますよね。
維新の会をボロクソに叩いてしまったかもしれませんが、もしこれが、大阪府民にとっても国民にとっても、そして海外の人達にとっても、皆が満足するような計画だったら、誰も文句は言いません。
大阪万博が成功して日本の景気が良くなれば問題ないんですが、危険地帯である夢洲での開催が決定した時点で、残念ながらその見込は低いでしょう。
建物を建てるためには、やはり安全面は確保しなければなりませんし、災害が頻繁に起こる日本に至っては、防災・減災のことも考えないといけないのは当たり前のこと。
そこに意識を向けず、自分たちに都合の良い理想を掲げ、勢力拡大のために無理やり押し通そうとする政治家たち。
政治家が暴走しないためにも、私たち一人ひとりがしっかりと彼らを監視し、どの政党を支持するのかを決め、投票へ行くことが大切ですよね。